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今年も早いもので2か月半が経過しました。
中国の各企業は2021年度決算の関する監査手続きを終えたか、今まさに監査手続き中であり、2021年度の決算数値を踏まえて、親会社への利益配当を計画している企業も今年は多く見られます。特に最近の「国際情勢」や「円安基調」も、積極的に配当を行う動機になっていると思われます。時節柄、利益配当にあたっての税務処理もさることながら、中国の会社法に規定されている法定準備金の積立についてお問い合わせをいただくことが増えています。そこで今回は中国における法定準備金・積立金又は利益準備金(以下、「法定準備金」とします)の処理・取扱いについて整理してみていきたいとと思います。
(参考中国語:会社法・・・法定公积金財務諸表の表示・・・法定盈余公积金)
「中国会社法」の中で「法定準備金」について規定している条文は下記の3つです。
【第166条】(法定準備金)
会社は、当年の税引後利益を「分配」するときは、利益の10パーセントを法定準備金として積み立てなければならない。法定準備金の累計額が会社の登録資本金の50パーセント以上である場合、新たな積立を必要としない。
会社の法定準備金が過去の年度の会社の欠損を補填するのに不足する場合、前項の規定により法定準備金を積み立てる前に、当年の利益を持って欠損を補填しなければならない。
株主会、株主総会又は董事会が前項の規定に違反して、会社が欠損を補填し、法定準備金を積み立てる前に株主に利益を分配した場合、株主は規定に違反して分配された利益を会社に返還しなければならない。
【第168条】(準備金の用途)
準備金は欠損補填、会社の生産経営の拡大または資本への組入れに用いるものとする。但し、資本準備金は会社の欠損の補填に用いてはならない。
法定準備金を資本に組み入れる場合、当該準備金の残高は法定準備金組み入れ前の会社の登録資本金の25パーセントを下回ってはならない。
【第203条】(法定準備金を積み立てない行為)
会社が本法に定める法定準備金を積み立てない場合、県級以上の人民政府財政部門が積み立てるべき金額を補足するよう命じ、且つ会社を20万元以下の過料に処することができる。
法定準備金の積立で論点となるのが、その積立のタイミングです。弊社のお客様でも、配当するしないに関わらず毎年の決算において利益が出たときは、税引き後利益の10%を法定準備金として積み立てたうえで、残りの部分を次期繰越利益として処理をしている企業と、毎年は法定準備金の積立を行わず、利益配当を行うときに、配当の対象とする未処分利益の発生年度分全額についての10%(または配当により社外流出する金額の10%)を法定準備金として積立をする企業と二通りの処理状況がみられます。
前者の処理をする場合には、会計監査を受ける時点で、会社が作成した決算書を基に法定準備金を積みたてる旨を株主会・出資者会等で承認されているというのが建前にあるはずですが中国の実務では、この手続きが無いまま監査時に「自動的に」積立が行われているケースも見られます。できれば事前に会社で法定準備金積立に関する議事録等を作成して、その議事録をもって監査を受けるという手順が望ましいと言えます。
ちなみに、外商独資法実施細則では「分配時」ではなく、「中国税法の規定に基づく企業所得税を納付した後の利益から、予備基金(法定準備金)・・・・を控除しなければならない」という表現がされていました。
《会社法》の166条に規定されているとおり、当年の税引後利益を分配するときは、利益の10パーセント以上を会社の法定準備金として積み立てることが必要ですが、会社の法定準備金の累計額が登録資本金の50パーセントに達している場合には、新たな積立を必要としないと規定しています。企業様の中には資本金の50%を超えても継続して10%の積立を継続している企業様もありますが、下記の「法定準備金の用途」での説明にもあるとおり、使用用途は限定されていますので、株主・出資者の立場からは資本金の50%まで積み立てが完了したら後は配当原資等として残しておきたいところです。
「会社法」第168条によると、法定準備金の用途は以下の通りです。
① 欠損補填
② 自らの生産経営拡大に用いる
③ 資本金への組み入れ
(法定準備金を資本金に組み入れる場合、残存する準備金は組み入れ前の会社の登録資本金の25%を下回ってはならない)
上記①と③はいずれも董事会の決議(「会社法」第46条の規定)が必要であり、株主の採決が可決された後に実行することができます(「会社法」第37条の規定)。
法定準備金の資本組入は、実際には企業に新たな資金流入をもたらすものではなく、単に登録資本金が大きくなるだけですので、上場会社であれば別ですが、我々のような外商投資企業が法定準備金の資本組入を行う実質的なメリット・効果はあまり無いのではないでしょうか。
《会社法》の166条では、会社はすでに積み立てを行っている法定準備金の金額をもって過去の年度の欠損を補填するのに不足する場合には、当年において新たに法定準備金を積み立てる前に、まずは当年の利益を持って欠損を補填しなければならないことを規定しています。本条は法定準備金の積立基数を明確に規定し、過去の年度が損失の場合には、利益年度に取得した純利益は、まず過去年度の損失の補填に充てたうえで、残りの純利益額について規定の料率によって法定準備金を積み立てることになります。
例:単位:万元
項目 | パターンⅠ | パターンⅡ | パターンⅢ |
---|---|---|---|
過去年度損式(-表示)a. | 0 | -80 | -120 |
当年度純利益 b. | 100 | 100 | 100 |
補填後利益純額 c.= b.- a. | 100 | 20 | -20 |
当年度積立法定準備金 c.* 1 0 % | 100*10% | 20*10% | 0 |
「会社法」第166条は、株主会、株主総会又は董事会が前項の規定に違反して、会社が欠損を補填せず、また法定準備金を積み立てる前に株主に利益を分配した場合には、株主は規定に違反して分配された利益を会社に返還しなければならないと規定しています。
「会社法」第203条は、会社が本法に定める法定準備金を積み立てない場合には、県級以上の人民政府財政部門が積み立てるべき金額を補足するよう命じ、且つ会社に対して20万元以下の過料に処することができると規定しています。
会社は株主・出資者の出資により設立されますが、企業活動を行っていく過程において金融機関等からの資金融通を受けたり、または仕入れ先等から掛仕入の方法で物資を調達したりして外部に多くの債権者が存在するケースも当然あります。またその会社で働く従業員は企業と労働契約を締結して労働を提供した対価として毎月の給与の支払いを受けます。
このような状況において、会社で利益が出たときに株主の判断でその会社のすべての利益を利益配当として株主・出資者に還元することで、債権者が自己の債権を回収できなくなる、または従業員が給与の支払いを受けられないような状況になって不利益が生じることを防止するため、会社にある程度必要な資金を留保させることが必要になります。利益準備金の積立というルールはこのことを担保させるためのルールであると言えます。
※ 補足(利益配当の時期)
利益配当はどのタイミングでできるのか?というご質問もよくあります。決算手続き中の年度の利益より前の年度の繰越利益を対象にする場合は、1 年のうちのいつでも送金可能ですが、決算手続き中の年度の利益を対象に配当する場合はどうでしょうか?原則的には決算手続き中の年度の確定申告を完了させて税引き後利益が確定した時点で可能というのが一般的な見解になるかと思いますが、銀行の事務手続き上は対象年度の監査報告書の入手ができていればその時点で送金できるケースもあります。
また、中国外貨管理法の規定により、送金額が5 万米ドルを超える送金をする場合には、送金手続きを行う銀行から「税務備案票」の提出を要求されます。
利益配当に関してご不明な点等ありましたら、私共日本人窓口または貴社の担当をさせていだいております弊社の中国人会計師の方にお気軽にお問い合わせください。
お会社への利益配当のための議事録作成から、税務処理、親会社への配当送金までの実際の事務手続きについてもちろん弊社による代行手続きのお手伝いも可能です。これまで配当送金をしたことのない企業様であれば、初回だけ弊社と貴社の財務スタッフの方とで共同で手続きを行うことで、ノウハウを社内に残していただくこともできるのではないかと思いますので、その際はぜひお声掛けください。
冒頭にも述べましたように、今は「対人民元円安基調」ですので中国からの配当による利益回収の好機です。(完)
参考資料『中華人民共和国会社法』
1993年12月29日第8期全国人民代表大会常務委員会第5回会議が採択された。
2018年10月26日第13期全国人民代表大会常務委員会第6回会議「『中華人民共和国会社法』改正に関する決定」第4回改正による。
以上
(担当:左培剑 中国注册会计师 ・ 王 小焕 中国注册会计师 ・ 陈灏文)
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