国際間の取引については、租税条約は国内法に優先して適用されるため、国内法と租税条約に異なる定めがある場合には、租税条約の定めを適用することとなるため、取引相手の所在地国の租税条約の確認が必須となります。
例えば、国内法では、国内源泉所得を国内においてその業務の用に供した場合等という規定をしており、使用地主義を採用しているとされています。
一方、租税条約では、使用料所得などその使用料を支払う者の所在国を所得源泉地と定めている(いわゆる債務者主義)場合が多く、所得の源泉地が国内法に定める場合(業務の用に供した場所)と異なることがありますので注意を要します。
また、租税条約において徴収税率の上限を定めている場合(いわゆる限度税率)がありますので、この場合には当該限度税率により課税することができます。
非居住者及び外国法人が日本において課税対象となる所得を有する場合の課税方法は、国内に恒久的施設を有するか否か及び所得の種類により課税方法が異なります。
具体的には、①確定申告による課税、②源泉徴収による課税、③源泉徴収後に確定申告による課税の3パターンとなります。(上記1の表参照)
ここでは、国内企業において対応が生ずる②及び③の源泉徴収にフォーカスして紹介します。
法人が、非居住者又は外国法人に対し支払いを行う場合で、上記1の表に掲げる区分の所得に該当する場合には、上記1の表に掲げる源泉徴収税率(復興特別所得税含む)に基づき、当該支払いの際に源泉徴収し、翌月10日にその支払い者を所轄する税務署に当該源泉徴収税額を納付します。 以下、実務上比較的生じる可能性が高い支払いについてご説明します。
(1)土地や建物等の譲渡による対価の支払いがある場合の留意点
非居住者又は外国法人から国内にある土地や建物等を購入した場合には、当該譲渡代金支払い時に10.21%の税率で源泉徴収納付が必要となります。なお、手付金として譲渡実行前に支払われるものについても、譲渡対価の一部に充当されるものであることから、手付金支払い時にも源泉徴収納税が必要となります。
(2)人的役務提供事業による対価の支払いがある場合の留意点
- 国内法の取り扱い
課税対象とされている人的役務提供事業は、国内において、芸能人等、職業運動家、弁護士・公認会計士等の自由職業者、科学技術、経営管理その他の分野に関する専門的知識又は特別の技能を有する者の当該知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業とされています。当該人的役務提供事業の支払い時に20.42%の税率で源泉徴収納税が必要となります。
- 租税条約がある場合
取引先相手国との租税条約において、日本国内に恒久的施設がなければ(当該恒久的施設を通じて事業活動を行っていなければ)、当該役務提供事業による所得は日本国では課税しないことが出来るとされている場合があり、当該対価支払い時の源泉徴収は免除されます。(いわゆるPEなければ課税なし。)この場合、相手国企業は、租税条約の届出書を所得の支払い者を経由して支払いが行われる日の前日までに支払い者を所轄する税務署長に提出することとされています。
- 日印租税条約の注意点
人的役務提供事業による対価の支払先がインド企業である場合には注意が必要です。
日印租税条約では、人的役務提供事業の所得源泉地を支払い者の居住地と定めており、当該租税条約の適用による所得源泉地の置き換えがなされます。(使用地主義から債務者主義への変更)。これにより、インド企業が行う人的役務提供事業がインド国内で行われていたとしても、日本国内企業が支払う当該対価に対して、日本での源泉徴収納税が必要となりますので注意を要します。また、日印租税条約では当該対価の限度税率を10%と定めているため、10%の税率で源泉徴収納税をし、租税条約の届出書を所得の支払い者を経由して支払いが行われる日の前日までに支払い者を所轄する税務署長に提出することとされています。
(3) 不動産貸付の対価の支払いがある場合の留意点
非居住者又は外国法人から国内にある不動産を賃借し、賃借料及び管理料を支払う場合には、支払いの都度20.42%の税率で源泉徴収納税が必要となります。
なお、海外関係会社へ出向した社員が所有する不動産を会社が借上げる場合もこれに該当します。
(4) 配当所得がある場合の留意点
上場株式以外の株式等に係る配当金の支払いに対し、20.42%の税率で源泉徴収納税が必要となりますが、取引先相手国との租税条約において、配当金に係る税率について限度税率が設けられている場合がありますので注意を要します。
株主に、海外居住者がいる場合、滞在国との租税条約により源泉徴収税率を軽減できる可能性があるため、配当金支払いが予定されている場合には、日本の非居住者に該当する者について、租税条約の届出書と当該国の居住者を証する書類の提出を事前に案内された方が親切な対応といえるでしょう。
(5) 貸付利子所得の支払いがある場合の留意点
- 国内法の取り扱い
国内において業務を行う者に対する貸付金で、当該業務に係るもの(国内の業務の用に供されているもの)の利子は国内源泉所得に該当するとされていますが、当該利子に係る借入金の資金が海外工場の建設や、海外子会社への出資等に使われている場合には、国内源泉所得に該当しないこととなります。
- 租税条約がある場合
相手国との租税条約において、貸付利子所得の源泉地を支払い者の居住地と定めている場合(債務者主義)には、所得源泉地が置き換えられ、日本での源泉徴収納税が必要となりますので注意が必要です。また、限度税率の定めの有無も同様に注意が必要です。
(6) 使用料所得の支払いがある場合の留意点
- 国内法の取り扱い
非居住者又は外国法人から受ける、工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式もしくはこれら準ずるもの、著作権その他これらに準ずるものの使用料又はその譲渡による対価、機械装置等の使用料で、国内において業務を行うものの業務に係るものは国内源泉所得とされています。上記(5)と同様にこれらが国外にて業務の用に供されている場合には、国内源泉所得に該当しないこととなります。
いわゆるノウハウの使用料は、上記記載の特別の技術による生産方式もしくはこれらに準ずるものに該当することから使用料所得の対象となります。
- 租税条約がある場合
相手国との租税条約において、使用料所得の源泉地を支払い者の居住地と定めている場合(債務者主義)には、所得源泉地が置き換えられ、日本での源泉徴収納税が必要となりますので注意が必要です。また、限度税率の定めの有無も同様に注意が必要です。
(7) 給与その他人的役務提供に対する報酬等の支払いがある場合の留意点
- 国内法の取り扱い
海外関係会社に出向した社員に給与の支払いが生じる場合には、当該出向社員は非居住者に該当することから、非居住者に支払う給与のうち国内源泉所得に該当する部分のみ、20.42%の税率で源泉徴収納税が必要となります。
この国内源泉所得の判断は、役員以外の者(従業員)はその勤務がどこで行われたかで判断することとされています。このため、その勤務が海外において行われている場合には、日本で留守宅手当等給与の一部を支給する際の当該給与は国外源泉所得となるため、源泉徴収納税は要しないこととなります。
なお、内国法人の役員としての勤務に基づく給与(役員報酬)は、その勤務が海外で行われていたとしても国内源泉所得とされていることから、非居住者役員に対する役員報酬は20.42%の税率で源泉徴収納税が必要となります。
- 租税条約がある場合
租税条約において給与所得に関し、短期滞在者免税規定が設けられている場合があります。
これは、相手国での滞在日数が183日以内であり、相手国の組織等から給与の支給を受けておらず、相手国の組織等に給与負担分の費用付け替えを行っていない場合には、当該相手国での勤務に基づく給与所得は課税しないとする規定です。
海外出向者社員が一時帰国した際に、日本親会社にて短期間勤務する場合、海外出向先から支払われる給与については上記短期滞在者免税規定に該当するケースが多いものと思いますが、日本親会社が日本国内で支払う留守宅手当等の給与については、短期滞在者免税規定の要件の一つ(相手国の組織等から給与の支給を受けていないこと)に該当せず、日本払い給与のうち日本勤務期間分は国内源泉所得に該当し、支払い者側で20.42%の税率で源泉徴収納税が必要となりますので注意を要します。
(1) 加算金等の負担
上記に掲げる非居住者・外国法人に対する対価支払い時の源泉徴収納税漏れがあった場合には、不納付加算税(10%、告知前自主納税5%)と延滞税(納期限の翌日から2か月間年2.4%、納期限の翌日から2か月を経過した日以降年8.7%。各延滞税率は令和4年1/1~令和4年12/31までの期間の場合)が課されます。
(2) グロスアップ税額計算
既に支払い済みの対価に対して源泉徴収納税漏れが生じた場合、非居住者や外国法人の支払い相手方に対し、当該源泉徴収納税額分の返金を求めることになりますが、当該返金が現実的に困難な場合には、支払金額を税抜き金額としてグロスアップ計算し源泉徴収納税額を算定せざるを得なくなります。