天津大野木邁伊茲諮詢有限公司
北京大野木邁伊茲諮詢有限公司

中国にある子会社が、中国国外の親会社等から外債により資金調達を行う場合には、所定の登記や申請が必要ですが、今年になって外債による資金調達に関わる規定が 2 つ公布されています。

《企業中長期外債審査登記管理弁法》「国家発展改革委員会令第 56 号」（以下「56 号文」）

2023 年 1 月 5 日に国家発展改革委員会（以下「発改委」）から公布。

2023年 2 月 10 日より施行。

※同時に 2015 年に公布された《国家発展改革委員会の企業発行外債備案登記制管理改革の推進に関する通知》「発改外資（2015）2044 号文書」（以下「2044 号文」）は廃止されています。

 

マクロプルーデンス政策因数の調整

2023 年 7 月 20 日に中国人民銀行及び国家外貨管理局からクロスボーダー融資マクロプルーデンス政策因数を調整することが発表。

企業の「マクロプルーデンス管理」の政策因数が 1.25 から 1.5 に引き上げられることになりました。

「マクロプルーデンス管理」モデルを採用して外債調達を行う企業の外債枠が純資産の2.5 倍から 3 倍に拡大されます。

 

中長期外債を借入れる企業は「2044 号文」では、事前に発改委に届け出（備案）を行うされていたものが、「56 号文」では審査・登記手続きを行い「企業借用外債審査登記証明」を取得する必要があることになり（第十条）、これがないと外債登記、外債口座の開設、資金の受領、換金、使用が認められないこと（第十七条）が規定されており、ニュアンス的に若干厳格化された内容になっています。

中華人民共和国国内における企業及びその企業が支配する域外企業又は支店が、域外に対して人民元建て又は外貨建てによる元金及び利息を返済する借入期間が 1 年を超える負債性のある金融商品の借入（直接借入か間接借入かを問わない）」としており、ここでいう「企業」とは各種非金融企業及び金融企業が含まれますので、中国国内の外資企業の中長期外債も本公告の適用対象となります。

しかし、実務上では、「2044 号文」の施行期間（2015 年 9 月 14 日～2023 年 2 月 10 日の期間）から今日現在まで、外資企業が中長期外債借入を行うに際して、発改委での備案なり審査・登記手続きが無くても、ほとんどの地域で、「投注差」または「マクロプルーデンス管理モデル」方式による外債の借入可能額を確定して、主管外貨管理部門に借入契約を登録するのみで、銀行での口座開設の手続きを従来通り行うことができるというのが現状の主流になっています。

この点について、天津市の国家発改委にヒアリングしたところ、内資企業については 原則的に本公告に基づき審査登記を行う必要があるという回答がありましたが、外資企業について明確な回答はありませんでした。

ただ「56 号文」の施行によりルール的には、発改委で審査・登記手続きを行い「企業借用外債審査登記証明」を取得するということになっていますので、今後、中長期外債借入を実行する場合、又は既に実行済の短期借入の借入期間を延長する場合には、都度、主管外貨管理部門及び口座開設銀行、また必要に応じて発改委と確認を行った上で、手続きを行う必要があります。

 

2023 年 7 月 20 日、中国人民銀行及び国家外貨管理局は、クロスボーダー融資のマクロプルーデンス政策因数を従来の 1.25 から 1.5 に調整しました。これにより、マクロプルーデンス管理モデルを採用し外債調達を行う企業は、国外（香港等を含む）非居住者からの外債限度枠が純資産の 2.5 倍から 3 倍に拡大されます。

参考として 2017 年 1 月より施行されている「全範囲国外資金調達のマクロプルーデンス管理に関する通知」（銀発［2017］9 号）によるマクロプルーデンス管理モデルの外債枠の計算式（図表１）及びその後の政策因数調整の変遷（図表２）を以下の通りまとめてみました。

▼（図表 1）計算式

▼（図表 2）過去のマクロプルーデンス政策因数調整の変遷

 

また、投注差による外債枠の計算は以下の通りです。

＊外債限度枠＝（総投資額-登録資本金）×実際の登録資本金の払込率

▼（図表 3）総投資額と最低資本金比率に関する規定
（2020 年 1 月 1 日より外商投資法の実施に伴い廃止された
《中外合弁経営企業登録資本と総投資額比率の暫定規定》により）

 

注：上記の投注差比率は、「外商投資法」の施行に伴い 2020 年 1 月 1 日に廃止された《国家工商行政管理総局の中外合弁経営企業の登録資本及び総投資額の比率に関する暫定規定》（工商企字[1987]第 38 号）に基づくものです。

2020 年 1 月 1 日より前に設立された外商投資企業は、設立時に「総投資額」を工商登記しているので、工商部門又は外貨管理部門で関連情報を確認して、投注差を利用しての外債による資金調達ができますが、2020 年 1 月 1 日以後に設立された外商投資企業が投注差の概念を適用することができるかどうかという点については、天津市の場合は、工商部門に口頭でヒアリングしたところ、現状において企業のニーズに応じて、従来通り総投資額と登録資本金の備案を行うことができ、将来的に外債借入を行う場合に投注差とマクロプルーデンス管理モデルの選択が可能である旨の回答を得ています。

しかし、北京市の場合は工商登記手続き上、総投資額の備案ができないため、外債の借入においてはマクロプルーデンス管理モデルのみを採用することになるものと思われます。

 

従いまして、現状では地区によっては投注差モデルとマクロプルーデンス管理モデルの外債枠のいずれを使うかについて、企業で選択可能ですが（マクロプルーデンス管理モデルの外債枠をいったん選択した場合は、以後投注差への変更は不可）、今後の投注差管理モデルに関する追加政策の展開次第では投注差管理モデルの根拠法令の効力が無効となる可能性がありますので、この点もご注意ください。